ストーリーで伝えて共感を得る

私が駆け出しの新聞記者の頃、先輩から記事の書き方について「逆三角形で書け」と言われました。取材した結果を、なるべく早い段階で詰め込めという意味です。新聞では、刻一刻とニュースが入ってきて、例えば最初は1000字の記事でも他のニュースを入れるために短くしていきます。その際に記事の後ろから削っていくので、削られた後でもニュースの要素が詰まっているように「逆三角形」の記事が求められたのです。

しかし、これでは探査報道の記事には味気ないです。読者に情報を伝えることはできるかもしれませんが、共感はなかなか得られません。探査報道の目的は、単にスクープを放つだけではなく、読者の共感を得て事態を変えるエネルギーを社会に充満させていくことです。

共感を得る方法は、ストーリー形式で記事を書くことが有効です。雑誌やルポルタージュではこの方法をよく使っていますが、探査報道でもストレートニュース方式ではなく、ストーリーで伝えるのです。その方法をここでは三つお伝えします。

①主人公を設定する

どんな映画や小説にも必ず主人公がいます。視聴者や読者はその主人公に感情移入して、ストーリーにハマっていきます。探査報道の記事でも、同じように主人公を設定するのです。

例えばワセダクロニクルのシリーズ「強制不妊」では、強制不妊手術の被害者である飯塚淳子さん(仮名)を主人公にしてストーリーを展開しました。淳子さんの幼少時代から16歳で不妊手術を受けさせられるまでのこと、その後心身の後遺症に悩んだこと、父親との葛藤など淳子さんの視点で記事を連載しました。例えば手術を受けた時のことは次のように書きました。

「目を覚ますと、ベッドの上にいた。麻酔をされたのか、診療所の中に入ってからの記憶はほとんどない。とにかく、喉が乾いてる。室内には洗面台があったので水道水を飲もうとしたら、女性の看護師に『水は飲んだらだめ」と叱られた」

「実家に帰って間も無く、淳子を激痛が襲う。床を転げ回り、夜は痛みで目が覚めた」

もちろん、探査報道ですから「スクープ」は必要です。例えばこの連載では、NHKの経営委員や地元紙の河北新報の会長という本来ならこの蛮行をジャーナリズムの立場から食い止める役割がある人たちが、強制不妊手術を推進する団体の幹部に就いていたことを暴きました。他にも新事実をふんだんに発掘しています。

しかし大事なのは、そうした「スクープ」をストーリーの中で伝えることです。

②次を読みたくなる連ドラ方式

「逆三角形」型のストレート記事では、結果を先に伝えてしまいますが、ストーリー形式はそうではありません。物事が分かっていくプロセスを読者と共有します。あることが分かったら、次はどうなるんだろう?と読者を前のめりにさせて、グイグイとストーリーに引き込みます。「今書いている1行は次の1行のためにある」と言ってもいいくらいです。

ワセクロのシリーズ「消えた核科学者」はその典型例です。この連載は、旧動燃のエリート核科学者だった竹村達也さんという方が、1972年に北朝鮮により拉致されているかもしれないという非常にショッキングで、ミステリアスなストーリーです。

記事を書いている私は当然、その先の展開を知っているわけですが、いきなりその結果は伝えません。一つ一つ、自分が取材経験した取材過程を読者と共有します。私が取材でその都度、疑問を持ったりハラハラしたりしたことをストーリーの中に盛り込んで読者に「次はどうなるんだろう?」と思わせるのです。謎解きを読者に共に楽しんでもらうのです。私の姉もこのシリーズを読んでいるのですが「お姉ちゃんにだけ次がどうなるか教えて」と言われた時は、「やった!」と筆者としての満足感を得ました。

例えば竹村さんが失踪した直後、部下の科学者を茨城県警の刑事が訪れるのですが、連載の初回は次のような1文で終わって、次回へ「つづく」としました。

「竹村の失踪直後、その科学者は茨城県警の刑事から『忘れられない一言』を聞いていた」

③映像で再現できるまで具体的に

全体を通して大切なことは、とにかく具体的に書くことです。具体的だと読者がスラスラと読み進められます。

例えば主人公が「嬉しかった」なら、嬉しかったとは具体的にどういうことなのか。嬉しいことがあった時に思わず鼻歌を口ずさんだのか、友人に電話したのか。自分の頭の中で映像として再現できるまで取材を重ねることが必要です。

例えばワセクロがイギリスのガーディアンと共同で発信した都営団地の孤独死の記事では、孤独死した男声の住まいについて、次のような一節があります。

「5階建ての団地の3階。エレベータはない。鉄扉の玄関には男性の表札がかかっていた。〈大塚一良〉 郵便受けはガムテープで塞がれていた」

ディテールに徹底的にこだわる取材姿勢は、特ダネを取れる能力も向上させます。具体的に質問を重ねることで、不正を行っている取材相手の矛盾を突き、ウソを見抜けるからです。一石二鳥ですので、ぜひ実践してみてください。